今回お話を伺ったのは、大分県佐伯市の中体連部活動地域移行クラブ「Navioフットボールクラブ」の代表兼監督を務める岩崎彰範氏です。
佐伯市出身の岩崎氏は、宮崎日大高校から関東学院大学に進学し、指導者を目指す道へ転向。そこからは、横浜F.マリノスのスクールをはじめ、関東で指導経験を積んだのち、地元佐伯市に戻り、Navioフットボールクラブを立ち上げました。
現在創設3年目となるクラブの立ち上げのきっかけやクラブ運営にこめる想いなど、岩崎氏の「心ときめく歩き方」を伺いました。
地域の子どもたちに、新たな選択肢を。
神奈川県の関東学院大学に進学し、選手としてサッカーを続けていましたが、怪我などをきっかけに、指導者の道へ進むことを決めました。大学在学中には教員免許も取得し、卒業後はすぐに地元・大分県佐伯市へ戻りました。
地元に戻ってからは、佐伯市内で最も大きな中学校の部活動外部指導員として、6年間指導に携わりました。しかし、少子化の影響もあり、6年目には部員が5、6人ほどとなり、単独で活動することが難しい状況になっていました。周囲の中学校でも同じように、部員数の減少によって単独での活動が難しくなっていました。
その現状を目の当たりにする中で、「子どもたちがサッカーを続けられる受け皿となるチームが増えれば、地域の子どもたちが集まり、もう一度サッカーを選べる環境をつくれるのではないか」と考えるようになりました。
そこから、いつか自分でチームを立ち上げることを目標に、指導者ライセンスの取得や大分県トレセンでの指導など、一つひとつ経験を積み重ねながら、自分自身の指導者としての幅を広げていきました。
そうした活動を続ける中で、地域の方や保護者の皆さんにも少しずつ自分の名前を知っていただけるようになり、「自分でチームを立ち上げる」ということが、少しずつ現実的なものになっていきました。
そして、部活動の地域移行が進められる中で、中学生の新たな受け皿をつくるという形で、サッカー協会や佐伯市教育委員会とも協力しながら、チームを立ち上げることになりました。
自分自身がサッカーを続ける中で出会った指導者から教えてもらったこと、そこから得た学びや感じてきたこと。そして、指導者として地域の子どもたちと向き合う中で見えてきたこと。その一つひとつが、今のNavioのチームづくりにつながっています。


子どもたち自身の判断を大切にする、Navioの指導方針
クラブを指導する上で掲げている究極の目標は、「コーチングなしで優勝すること」です。
ベンチから指導者が何も言わなくても、子どもたち自身が考え、話し合い、自分たちの判断で試合を進め、最後に優勝できる。そんなチームになれたらと思っています。
そのために、試合だけではなく、普段の練習から「自分で考えて判断する」ことを大切にしています。
実際にプレーしているのは子どもたちです。その瞬間に何を感じ、何を見て、どう判断したのかは、本人にしか分からない部分があります。
だからこそ、まずは自分自身でプレーを振り返ってもらう。その上で、指導者がいくつかの選択肢を示しながら一緒に考え、会話をし、最後は自分で判断してもらう。
そうやって少しずつ自分の中にある選択肢を増やしていくことが、その子自身の成長につながると考えています。
そして、こうして身につけた「自分で考えて判断する力」は、サッカーを続けていく上でも大きな強みになると思っています。
子どもたちが高校や大学へ進学すれば、それぞれのチームにスタイルがあり、指導者によって指導方法も異なります。その中で、監督やコーチからの指示を受けるだけではなく、自分なりの考えを持って判断できる選手であれば、どんな環境に行っても、自分の力を発揮できるはずです。
もちろん、最初からできるわけではありません。
現在の1期生も、活動当初は「自分たちで考えてやろう」「自分で判断しよう」と伝えても、どうすればいいのか分からない状態からのスタートでした。
それでも、根気強く取り組んできたことで、3年目になった今では、試合中に「どうする?」「こうしたほうがいいんじゃない?」と子どもたち同士で話し合ったり、練習中にもお互いに声を掛け合ったりする姿が増えてきました。
そうした姿を見ると、少しずつですが、子どもたちの中に「自分たちで考えてサッカーをする」という意識が育ってきていることを感じます。
もちろん、スポーツである以上、勝つことにはこだわりたいと思っています。
ただ、「コーチングなしで優勝する」という目標は、単に勝利だけを求めたものではありません。子どもたちが自分たちの力で考え、判断し、試行錯誤しながら成長していく。その積み重ねの先に、チームとしての勝利があると考えています。
だからこそ、勝つことだけを追い求めるのではなく、まずは子どもたち一人ひとりが自分で考え、判断できるようになることを大切にする。その軸だけはこれからもぶらさずに、Navioらしい指導を続けていきたいと思っています。


競技の先にある、“人とのつながりを育む”クラブ
クラブは創設3年目を迎えましたが、もともとは、単独のチームとして活動することが難しくなった地域のサッカー部に所属する中学生たちを集め、スクールという形で活動をスタートしました。
そこから、教育委員会をはじめ、地域の方々にもさまざまな形でご協力いただいたことで、少しずつクラブの存在を知ってもらえるようになり、仲間も増えていきました。現在では、全学年合わせて43人が所属し、互いに切磋琢磨しながらサッカーに取り組める環境ができてきたと感じています。
中には、中学からサッカーを始めた3名の選手がトップチームに加わるなど、それぞれの経験やスタート地点に関係なく成長できることも、Navioの大切な特色の一つになってきました。
そんな中で、これからNavioが目指していきたいのは、子どもたちにとって「ここでサッカーを続けて良かった」と思える場所であることです。
子どもたちが高校生になれば、強豪校でサッカーを続ける子もいれば、勉強に力を入れて進学校へ進む子もいる。将来どんな道を選ぶのかは、一人ひとり違います。
だからこそ、サッカーを通じて一人の人間として成長していく。その過程に関わることこそが、私たち指導者に与えられた大切な役割だと思っています。
そして、Navioを卒業した子どもたちが大人になり、いつかまたこの地域に帰ってきたときに、「あの場所に行けば、昔の仲間がいる」「あそこに帰れば、またサッカーができる」――そんなふうに思ってもらえる場所になれたらいいなと考えています。
競技としてサッカーを続ける場所であると同時に、サッカーを通じて人がつながり、それぞれの道へ進んでいく。そして、いつかまた帰ってこられる。Navioが、そんな地域ならではの温かさを持ったクラブになっていけたらと思っています。


あとがき
今回のお話を伺う中で印象に残ったのは、サッカーの指導について語られる一つひとつの言葉の先に、「どんな人として、どんな人生を歩んでほしいか」という想いがあったことでした。
サッカーを通して、自分で考え、自分で選び、自分らしい道を歩んでいく。その姿勢は、競技だけにとどまらず、人生の歩み方にも通じるものなのかもしれません。これまでサッカーと向き合いながら、自らの道を切り拓いてきた岩崎氏の歩みから、「心ときめく歩きかた」とは何かを考えるきっかけをもらえるお話でした。
この度は、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。これからも、岩崎氏とNavioフットボールクラブのさらなるご活躍を楽しみにしています。
