今回お話を伺ったのは、大分県大分市を拠点に、サッカースパイク「stayG」を手がける株式会社DFSB代表取締役の野尻陸生氏。
大分トリニータの育成年代でサッカーに打ち込み、大学進学を機に東京へ。大学4年時には個人で事業を始め、その後も約6年間東京でさまざまな仕事や人との出会いを重ねながら、自らの進む道を模索してきました。
そんな中で、「サッカーに関わる仕事がしたい」という思いから、選手の声を集めたサッカースパイクづくりに挑戦。作り方も分からないところから試行錯誤を重ね、現在は「4年後のワールドカップで履かれるスパイクになる」という目標に向かって歩みを続けています。
さまざまな出会いや経験を重ねる中で、心が動くほうへ一歩ずつ進んできた野尻氏。その歩みの先に見ている未来とは。今回は、野尻氏の「心ときめく歩き方」を伺いました。
経験の先に見つけた「サッカースパイクをつくる」という挑戦
大学に進学するときには、将来の仕事を見据えて、人脈や土地勘を身につけておきたいという思いがあり、東京の大学へ進学しました。
せっかく東京に来たのだから、できるだけ多くの経験をして社会のことを知りたいとの思いから、大学1年生ではコンビニ、2年生では居酒屋というように、1年ごとに区切ってさまざまなアルバイトを経験しました。
また、大学4年生になると、将来について考える機会も増えていきました。周りの経営者の方たちからビジネスについて学ばせてもらいながら、自分で事業を試して、実際に収入を得るという経験もしました。
どういう仕組みをつくれば仕事として成り立つのか、一つのことを続けるだけではなく、その時々で新しいことに挑戦したり、人との出会いが次の仕事につながったりと、働き方にはいろいろな形があるんだと知ることができたんです。
こうして目の前にあることを一つずつ経験した結果、大学を卒業する頃には、「もっと勉強してみたい」「自分で仕事をしていけるかもしれない」と思えるようになっていました。
そこで、卒業後も東京に残ることを決め、さまざまな仕事に携わりながら、人との出会いを重ねていきました。そんな生活を一昨年まで続けていたあるとき、一緒にサッカーをしていた友人と「サッカーに関わる仕事がしたいよね」と話すようになったんです。
そこから、まずは自分たちに何ができるのかを考え、学生時代に所属していたチームにアポイントを取りました。最終的には、役員の方にプレゼンする機会までいただき、しばらくサッカーの現場から離れていた自分にとって、今のサッカー界の現状を知る貴重な経験になりました。
そこで得た気づきをもとに、現役で活躍するサッカー選手の友人たちにも話を聞いていきました。選手が実際にどんなことを感じ、どんなものを求めているのか。そうして話を聞いていく中で、次第に「サッカー選手と一緒に、スパイクそのものを作ったら面白いんじゃないか」と考えるようになったんです。
選手時代を振り返ると、チームから指定されたメーカーのスパイクを履いていましたが、なかなか「これだ」と思えるスパイクには出会えませんでした。大学に入ってから初めて自分に合うスパイクに出会ったこともありましたが、数年後にはそのモデルが廃盤になってしまった。
そうした経験も踏まえ、「大きなメーカーのスパイクであっても、選手には悩みや不満があるんだ」と感じるようになりました。
選手たちが「良かった」と感じてきた過去のスパイクには、どんな特徴があったのか。実際に選手の声を聞き、さまざまなデータを集めて研究していけば、今までになかった、もっと良いスパイクを作れるんじゃないか。
そんな思いが少しずつ形になり、「自分たちでサッカースパイクをつくる」という挑戦へとつながり、スパイクづくりを事業として始める、起業への大きなきっかけになっていきました。


ゼロから始まった、サッカースパイクブランド
起業を決めたものの、もちろん、それまでスパイクを作った経験はありませんでした。「そもそもスパイクって、どうやって作るんだろう?」そんな素朴な疑問から、まずは国内の工場に「スパイクを作りたい」と問い合わせるところから始めました。
ところが、実際に作ろうとすると、必要な人材や材料、設計など、さまざまな条件があり、決して簡単に作れるものではありませんでした。
国内だけではなく、海外の工場にも英語で問い合わせを送りましたが、返事をいただけるところは限られていました。ようやく返事が来ても、「最低ロット数千足から」ということもあり、「最初からそんな数は作れない。どうしよう」と頭を悩ませました。
それでも諦めずに探し続ける中で、スパイクづくりの専門的な部分までサポートしてくれる会社と出会うことができ、ようやく本格的にスパイクづくりへの挑戦が始まりました。
スパイクを作るために必要な資金の調達にも悩みながら、一つずつ準備を進めていきました。そして昨年9月、さまざまな壁を乗り越えた先に、スパイクづくりを事業として進めていくため、「株式会社DFSB」を設立しました。
会社を立ち上げてからは、サッカー選手の友人たちに「これからスパイクを作るんだけど、どんな特徴があったらいいと思う?」と一人ひとり話を聞いていきました。選手からもらった意見を少しずつ形にしながら、最初のスパイクづくりが始まりました。
そこからは、とにかく現場に出ることを大切にしました。実際に選手にスパイクを履いてもらい、使ってみた感想や意見を聞く。そこで一つ問題が見つかれば、「じゃあ、次はここを変えてみよう」と改善する。その繰り返しでした。
試行錯誤を重ねる中で、スパイクづくりに関する知識や経験を持つ方が、プロとしてチームに加わってくれることになり、スパイクの形もさらに進化していきました。
そうして少しずつ形になっていったスパイクは、次第に育成年代の子どもたちが実際の試合で履いてくれるようになり、ようやく第一弾の製品として生産できるところまでたどり着きました。


4年後のワールドカップを目指して
スパイクを作る上で、今の目標は、4年後のワールドカップで、サッカー選手にStay-Gのスパイクを履いてプレーしてもらうことです。
目指す先が決まれば、そこに向けてやらなければいけないことは本当にたくさんあります。だから今は、その目標に向かって、一つひとつできることを積み重ねながら、ひたすら取り組んでいます。
大手メーカーのように、最初から大きなロットで生産できるわけではありません。まだ誰も知らないブランドの商品が、いきなり店頭に並んだからといって、すぐに手に取ってもらえるとも思っていません。
だからこそ、今の自分たちにできることを考えたときに、「車にスパイクをいっぱい積んで、全国を回るしかないな」と思ったんです。
実際に足を運んで、スパイクを手に取ってもらい、履いてもらう。そうやって一人ひとりにstayGを知ってもらうことから始めています。
この挑戦を多くの方に知ってもらうために始めたSNSでも、スパイクが商品として履ける状態になる前から、「応援したい」という気持ちで支援してくださる方がいました。少しずつスパイクが良くなっていく過程も、一緒に見守ってくださる方が増えています。
まだ始まったばかりのブランドだからこそ、完成したものを届けるだけではなく、その過程も含めて応援してもらえるようなブランドにしていきたいと思っています。
実際の現場でも、自分が作ったスパイクを履いている選手が、試合でゴールを決めてくれたり、「このスパイクを履いて試合で活躍しました」と報告をもらったりすると、やっぱりめちゃくちゃ嬉しいです。
自分が作ったものを誰かが実際に履いて、その人のプレーにつながっていく。その姿を目の前で見られることは、ものを作る仕事だからこそ味わえる面白さなのだと思います。
最初は、「スパイクを作ってみたい」という好奇心から始まった挑戦でした。でも今では、僕一人で作っているものではありません。
選手の意見があって、開発を手伝ってくれる方がいて、スポンサーさんがいて、実際に履いてくれる子どもたちがいる。いろんな人の思いや声が重なって、一足のスパイクになっているんだと思います。
だからこそ、「目標にたどり着くために、今何をしなければいけないのか」を考えて、今日できることを一つずつやっていく。
そうやって一歩ずつ進んでいった先に、4年後のワールドカップで、選手がstayGのスパイクを履いてプレーしている。そんな景色を、自分たちの手でつくりたいと思っています。


心ときめく仕事との向き合い方
振り返ると、自分の歩いてきた道は、最初から目的地が決まっていたわけではありません。そのときに「面白そうだな」と思ったことや、「この人、かっこいいな」と心が動いた方に進んでいくと、それが次の仕事や新しい出会いにつながっていきました。
チャンスをつかむためには、やっぱり動くことが大事なんだと思います。一歩踏み出した先で出会った人や経験を大切にしながら、また次の一歩を踏み出す。そうやって歩いていくことが、人生を楽しむことなのかもしれません。
そうして見つけた仕事に取り組むときには、「これをやったら、こういう人たちが喜ぶな」とか、「こうなったらいいな」という未来を、先に考えるようにしています。
スパイクづくりも、目指す未来を想像すると、今やらなければいけないことにも向き合える。
支援してくださっているスポンサーさんや投資家さんとも、「次のワールドカップで、このスパイクを履いている選手を、みんなで応援しに行きたいですね」と話すことがあり、今はまだ夢のような話ですが、そんな未来をみんなで想像しながら話している時間が楽しいんです。
スパイクづくりも人生も仕事も、同じなんだと思います。
最初から完璧である必要はなく、「やってみたい」と思ったことは、まずやってみる。うまくいかなかったら、また修正すればいい。その繰り返しの中で、少しずつ自分が思い描いていた場所に近づいていく。
だからこそ、これからも「やってみたい」と思ったことには、できるだけ挑戦していきたいと思っています。そして、その先に自分だけではなく、一緒に取り組む人たちも「楽しい」と思える未来があれば、それが一番、仕事を頑張る原動力になると考えています。
「この先、どうなるんだろう」とワクワクできること。そして、その未来を誰かと一緒に見に行けること。そんな未来を思い描けるからこそ、今もまた一歩、進んでみようと思えるのだと思います。
あとがき
今回、野尻さんのお話を伺って、一番印象に残ったのは、「まずやってみる」という姿勢でした。これまでの出来事や出会いを一つひとつ大切にしながら、自ら動いてみる。その一歩が、次の仕事や新しい出会いにつながり、また次の一歩へとつながっていく。野尻さんのこれまでの歩みには、そんな積み重ねがあったのだと感じました。
私たちはつい、最初から正解を選ぼうと考えてしまいます。でも、まずはやってみる。うまくいかなければ、また考えて、修正していく。そうやって自分自身で道をつくっていくことも、一つの「心ときめく歩きかた」なのかもしれません。
4年後のワールドカップで、自分がつくったスパイクを誰かが履いてプレーしている。その景色を思い描きながら、今日も一歩ずつ進んでいる野尻さん。これからどんな景色が待っているのか。その歩みを、これからも応援しています!
