今回お話を伺ったのは、現在、福岡地区リーグ2部に所属する「リベドール博多」で副代表兼キャプテンを務め、監督やクラブ運営にも携わる森正和氏です。
森氏は、神奈川県の桐蔭学園高校で全国高校総体(インターハイ)優勝を経験。その後、立教大学へ進学し、卒業後は損害保険会社に入社。配属をきっかけに福岡へ移り、約7年間勤務しました。
現在は会社員を離れ、自ら不動産業を営む傍ら、社会人サッカークラブ「リベドール博多」を代表とともに立ち上げ、Jリーグ参入という大きな目標に向けて挑戦を続けています。
今回のインタビューでは、福岡との出会いからこれまでの歩み、クラブに込めた想い、そして挑戦を続ける理由についてお話を伺いました。
たどり着いたサッカーという「原点」
社会人一年目から会社の配属で福岡に来て、5年ほど経った頃です。仕事にはやりがいもあり、一生懸命取り組んでいました。ただ、このまま会社員として働き続ける未来を想像した時に、「本当に自分が歩みたい人生はこれなんだろうか」と考えることが増えていきました。
会社には約7年間勤めましたが、5年目頃には「いつか自分の会社をつくって独立したい」という目標を持つようになり、その実現に向けて少しずつ準備を進めていました。
ただ、独立に向けた準備を進める一方で、「自分が本当に夢中になれるものは何なんだろう」という問いが残っていたんです。
人生をかけて情熱を注ぎ続けられるものは何なのかを考えるようになり、コロナ禍では、自分のやりたいことを探そうと、ゴルフや水泳、登山など、さまざまなことに挑戦しましたが、どれも心から夢中になれるものにはならなかったんです。
そこで改めて、「人生で一番時間をかけてきたものは何だろう」と考えた時、真っ先に思い浮かんだのがサッカーでした。
決して楽しいことばかりではなく、むしろ苦しいことや悔しいことの方が多かったと思います。それでも、これほど長い時間をかけて向き合ってきたものを、この先も人生の中心に置いて生きていくことが、自分にとって一番幸せなんじゃないか。そんなふうに思うようになりました。
そんなタイミングで、高校時代からの同期で、現在リベドール博多の代表を務めている仲間から、「一緒にサッカークラブを立ち上げないか」と声を掛けてもらいました。
その仲間は、イングランド・プレミアリーグを観る中で、地域の人たちがクラブを応援し、勝敗に一喜一憂しながら、日々の活力や感動をもらっている姿に強く惹かれたそうです。そして、「福岡にも、誰かの日常を支えたり、前向きな気持ちになれたりするようなクラブをつくりたい」という想いを持つようになったと聞きました。
その話をきっかけに、それまで自分の中にあったサッカーという原点が、誰かにとっての力になるのかもしれない。そう思った時、「この挑戦をやってみたい」という気持ちが自然と湧いてきて、仲間とともにリベドール博多を立ち上げることを決めました。

ゼロから始まった、長く愛されるクラブへの道
クラブを立ち上げることが決まってからは、何カ月もミーティングを重ね、「どんなクラブにしたいのか」「どんな方向に進んでいきたいのか」を何度も話し合いました。
その中で、当時から二人の中で共通していたのが、「これからは、自分たちの活動や想いを、自分たちの言葉で届けていくことが大切になる」という考えでした。
そこで、クラブ発足初日にYouTubeチャンネルを開設し、活動の様子を発信し始めました。
選手が集まり、練習を重ね、少しずつクラブの形ができていく。最初から完成されたクラブを見せるのではなく、何もないところから挑戦し、悩みながら成長していく。その等身大の姿を、一つひとつ届けてきたことが、現在のリベドール博多の土台になっていると感じています。
クラブは福岡地区リーグ5部からスタートし、Jリーグを頂点とすると、そこから数えてJ12にあたるカテゴリーから歩み始めました。現在は順調に昇格を重ね、福岡地区リーグ2部まで上がってきています。
そうしたクラブの成長の過程や日々の活動を発信し続けてきたことで、取材のお声がけをいただくなど、少しずつクラブを知っていただける機会も増えてきました。
また、練習に向かう途中で、隣のコートで活動していたU-15世代の選手たちから声を掛けてもらったり、地方出身の選手が地元に帰った際に、子どもたちから声を掛けてもらったりする機会も増えています。
選手一人ひとりの存在が、地域の子どもたちにとって憧れや目標になっている。そのことを実感した時に、クラブが届けているものは、ただ画面の中の情報ではなく、人と人とのつながりを生み出しているんだと感じています。
私たちにとって、カテゴリーを上げること自体がゴールではありません。
Jリーグという目標に向かう中で、その過程を使って少しずつクラブの認知を広げ、地域とのつながりを深めながら、しっかりとした土台を築いていく。その積み重ねが、長く愛されるクラブへと成長していくために必要な時間だと考えています。
そして今では、「本当に上まで行くんじゃないか」と期待してくださる方も少しずつ増えてきました。その期待を力に変えながら、これからも応援してくださる方々と一緒にクラブの歴史をつくっていきたいと思っています。選手やスタッフだけではなく、関わるすべての人が「このクラブと歩んできてよかった」と思えるような、長く愛されるクラブを目指していきたいです。


人とのつながりが生み出す、クラブの価値
クラブを立ち上げて4年目を迎えた今、サッカーそのものの楽しさとは別に、大きな価値を感じているものがあります。
それは、このクラブがあったからこそ出会うことができた人たちとのつながりです。
もし会社員として生活していたら、きっと出会うことのなかったような人たちと、今では日常的に関わることができています。数カ月前まで高校サッカーに打ち込んでいた選手や、20代の若い選手たちがクラブに加わり、気づけば10歳以上年齢が離れていることも珍しくありません。
それでも、サッカーという共通のフィールドでは、年齢や立場を超えて、一人の選手として対等に向き合うことができます。そうした人とのつながりが生まれることは、今の私にとって、このクラブを続ける大きな魅力の一つになっています。
一方で、社会人クラブは、選手それぞれが仕事をしながら、限られた時間の中で活動しています。だからこそ、チームとして成長していくためには、サッカーの技術だけではなく、一人ひとりが自覚を持ち、クラブへの向き合い方や仲間との関わり方を大切にすることが必要だと考えています。
クラブのメンバーが時代とともに変化し、新しい選手が加わる中で、互いに刺激し合いながら競争することで、チームとしても少しずつ成長していく。そして、同じ価値観を持つ仲間とともに、一つのクラブをつくっていく。その積み重ねが、リベドール博多らしさにつながっていると感じています。
そして、一度でもこのクラブに関わった人が、「自分はリベドールにいた」と胸を張れる存在であり続けたいと思っています。

「心ときめく歩き方」を探している人へ
僕自身、最初から「これをやりたい」と明確な夢があったわけではありませんでした。好きなことを仕事にしてきたわけでもありません。だからこそ思うのは、無理に「やりたいこと」を探し続けなくてもいいのではないか、ということです。
世の中には、「自分のやりたいことを見つけたい」「自分の存在意義を見つけたい」と考えている人も多いと思います。でも、実際に最初から明確な答えを持っている人は、決して多くないのではないかと感じています。
大切なのは、「これから何をしたいのか」だけではなく、「これまで自分が何に時間をかけてきたのか」を振り返ることだと思います。
夢中になってきたこと。長く続けてきたこと。苦しい時でも、なぜか離れることができなかったもの。そこに、自分らしく生きていくためのヒントが隠れているのではないかと思います。
僕自身も、独立を考えた時に、改めて「自分は何に情熱を注ぎ続けられるのか」を考えました。そして最後にたどり着いたのが、人生で一番長い時間を費やしてきた「サッカー」でした。
新しく何かを見つけることだけが、自分らしい道を見つける方法ではないと思います。これまで積み重ねてきた経験や、自分の中にずっとあった大切なものと向き合うことで、新たな一歩につながることもある。
それが、僕にとっての「心ときめく歩き方」なのだと思います。
これからも仲間たちとともに、自分たちらしい歩みを続けながら、誰かの日常に前向きな力を届けられるような存在になっていきたいです。
あとがき
今回のインタビューを通じて、これまで歩んできた時間や経験は、たとえその時には意味を見出せていなかったとしても、未来につながる大切な一歩になるのだと感じました。
森氏が語ってくださった「これから何をしたいか」だけではなく、「これまで自分が何に時間をかけてきたのか」を振り返ることの大切さ。その言葉は、自分らしい歩みを探している多くの方にとって、一つのヒントになるのではないかと思います。
読者の皆さまにとっても、これまでの歩みを振り返り、自分自身の中にある大切なものに気づくきっかけとなれば幸いです。最後に、貴重なお話を聞かせていただいた森氏に、心より感謝申し上げます。
