九州ラクロス強化部協働企画 #1 配信

遠くへ行かなくても、答えはそこにある ― PLAY×MOVEに息づく哲学

まえがき

今回、「心ときめく歩き方」をテーマにお話を伺ったのは、子どもと大人がスポーツを通じて共に楽しみ、安心してチャレンジできるコミュニティ「PLAY×MOVE(プレイ・バイ・ムーブ)」の発起人であるダイス山口さんと、古河弘慈さんのお二人です。

ダイスさんは、NBAサンアントニオ・スパーズでアスレティックトレーナーとして活躍されてきました。一方、古河さんはエンジニアリング会社で世界各地の大規模プロジェクトに携わり、現在はJMJ Associatesの日本事業の代表として、企業を中心にリーダーシップ開発・組織開発のコーチングを行われています。

お二人は、それぞれの人生と現場で積み重ねてきた経験、そして数多くの対話から導き出した価値観をもとに、PLAY×MOVEの活動やJMJの企業研修を共に運営されています。

本記事では、お二人の歩んできた道のりと、そこから生まれた「心ときめく歩き方」を、対談形式でお届けします。ぜひ最後までご覧ください。

まずはPLAY×MOVEについて、どのような活動をされているのか教えていただけますか?

ダイスさん:現在は、「子どもたちの主体性や自主性を育てたい」という思いを軸に活動しています。スポーツに限らずですが、私自身のバックグラウンドであるスポーツや運動をきっかけに、「うごくをたのしむ」「ちからをあわせる」「やりたいをかなえる」という考え方を大切にしていて、ただ体を動かすだけでなく、心が動き、前に進む気持ちが育つこと。仲間と一緒に楽しみながら力を合わせ、自分の「やりたい」を声に出し、実現に向かっていく。そんな場をつくりたいと考えています。

そのために、活動の中で特に大切にしている合言葉が「3つのC」です。Challenge(チャレンジ)、Care(ケア)、Communication(コミュニケーション)。失敗を恐れず、恥ずかしがらずにやりたいことに挑戦すること、思いやりを持って支え合うこと、そして本音で話し合えるコミュニケーションの力を身につけること。この3つにいつでも立ち返れる場所でありたいという想いを大切に活動しています。

どのようなきっかけでPLAY×MOVEを始動されたのでしょうか?

ダイスさん:この考えに至った大きなきっかけは、高校卒業後に渡米し、2001年から2015年までアメリカでアスレティックトレーナーとして活動した経験にあります。NBAで20年以上ヘッドコーチを務めてきたグレッグ・ポポビッチが作るチームは、戦術や技術以上に、目に見えない関係性を大切にし、選手やコーチ一人ひとりの家族構成や生活背景、さらには人生観にまで目を向け、それを尊重する文化が根づいており、その姿勢こそが結果としてチームの強さにつながっているのだと感じました。

チーム内では「ロック・アンド・ハマー」という考え方も重視されていました。岩をハンマーで叩き続けても、100回では壊れなくても、101回目で壊れるかもしれない。それは101回目がすごかったということではなく、それまで積み上げてきた100回が重要なのだという考え方で、日々の小さな積み重ねがやがて大きな成果につながるという姿勢です。人を大切にすること、そして原理原則・基本的なことを徹底してコツコツと続けること。この2つこそが、トップに立つ組織に共通する本質なのだと、現場で強く実感しました。

その後日本に帰国し、2015年から2024年までは東京医科歯科大学でフルタイム勤務をしていました。世界のトップレベルを見てきたからこそ、日本に戻ってからも最高水準の現場で仕事がしたいと考え、縁あってスポーツサイエンスセンター立ち上げ期に室伏広治さん、(ハンマー投げ金メダリスト・現スポーツ庁長官・東京科学大学副学長)のもとで、アスリートサポートや研究補助に携わることになりました。多くのトップアスリートと関わる中で、コーチからの評価を気にしすぎるあまり、「なぜそのスポーツを始めたのか」という原点を見失っている選手が少なくないことに気づきました。自己否定に陥り、その結果としてパフォーマンスを落としてしまう――そんな悪循環を、何度も目にしたのです。

ちょうどその頃、子どもたちのバスケットボールクラブで指導する機会がありました。その中で「バスケットボールが好きな人?」と問いかけたところ、誰一人として手を挙げなかったのです。決してバスケットボールが嫌いだったわけではありません。後で感じたのは、周りの目を気にし、「みんなが手を挙げるなら自分も」「自分だけ違うのは不安」という空気の中で、正直な気持ちを表現することにブレーキがかかっていたのではないか、ということでした。好きなら好き、嫌なら嫌と言える、ありのままの自分を出せる社会であれば、自己肯定感が育ち、結果としてパフォーマンスにもつながる。そんな社会をつくりたいという想いが、PLAY×MOVEの始動を決意する原動力となりました。

現在の活動につながるまで、古河さんはどのような道のりを歩まれてきたのでしょうか?

古河さん:私は中学生の頃、親が離婚し、金銭的にとても厳しい生活をしていて、明るい未来を描けない状態でした。たまたまですが、その頃素晴らしい先生方と出会うことができ、勉強の成績がすごく伸びて、大学に授業料免除で行けることになり奨学金もいただけ、未来がパッと開けた感覚がありました。そのとき初めて、「自分は本当は何をやりたいのか」を考える余裕が生まれたのです。

もともと子どもが好きだったこともあって、将来は学校の先生になりたいなぁと漠然と思っていたのもあり、お世話になった先生たちへの恩返し・恩送りをしたいとの想いもあり、子どもたちに勉強を教えたり、バレーボール部のコーチをしたりしました。あるとき、勉強も運動も苦手で、得意なものが見つからないと悩んでいた生徒から「明るい未来が描けません」と相談され、根本的な解決につながる関わりができず、無力感に苛まれました。もし学校の先生になったとしたら、きっとずっと同じ悩みに直面するのだろうなと感じるようになっていきました。

そこでまずは、自分自身が思いきり挑戦し、これまで自分が受けてきた教育のうち「通用するもの」と「足りないもの」を見つけよう、そしてそこで得たものを次の世代に伝えていこうと考えるようになりました。昔から海外への憧れを持っていたこともあり、日本を代表するトップクラスのエンジニアリング会社である日揮に就職することになり、そこでは砂漠の真ん中や水や電気もないジャングルの中で、世界各国から集まった数万人規模の人々をまとめながら、プラント建設のプロジェクトに携わる仕事をしました。

実際に海外でのお仕事はどのような現場だったのでしょうか?

古河さん:新入社員の時に赴任したサウジアラビアの現場では、協力会社が運営していた配管工場の立て直しから仕事が始まりました。そこは工場長が何度も交代させられており、「お前たちはダメだ」と怒鳴られ続けてきた背景があり、私が赴任したばかりの頃は、みんな強い不信感と反抗的な態度を示していました。そんなある日、視察に訪れた上の立場の人が作業員たちを激しく叱責する場面を目の当たりにしました。当時は英語もほとんど話せませんでしたが、とっさに日本語で「文句があるなら俺に言え。彼らに言うな。責任者は俺だ」と怒鳴り返しました。この出来事をきっかけに現場の空気は一気に変わり、素晴らしい先輩たちからの支援もあって、3か月後には工場を立て直し、最高に楽しいチームをつくることができました。

その一方で、「上司が変わるだけで、職場の空気はここまで変わるのか」という強い疑問が残りました。良い上司の下では人はいきいきと働き、嫌な上司の下では同じ技術や経験があっても現場は沈んでしまう。この世界観をどうすれば変えられるのか。そんな疑問を抱えたまま、次はインドネシアに4年間駐在することになりました。

その現場で初めて、JMJという現在私が働いているコンサル会社と出会いました。アメリカ式のチームづくりとリーダーシップの実践が導入され、先ほどダイスさんの話にあったサンアントニオ・スパーズの文化と全く同じなのですが、人を最優先に考え、人と人や人と仕事といった関係の質を高めることを組織を挙げて大々的に取り組んだ結果、組織のパフォーマンスは飛躍的に高まり、現場で働く多くの人たちは「この職場で働けて幸せだ」と口にするようになり、プロジェクトを大成功に導くことができたのです。

この経験から得られた人を本当に大切にすることや、様々な関係の質を高めること、そしてリーダーシップ開発や組織開発といったものは、必ずこれからの日本に必要なものだと確信し、これを日本に広めたいと強く感じるようになりました。

それぞれの海外でのキャリアやこれまでの経験が現在の活動に繋がっているのでしょうか?

ダイスさん:はい、まさにそうだと思っています。PLAY×MOVEが大切にしている「チャレンジ」「ケア」「コミュニケーション」という3つのCは、これまでの経験からたどり着いた土台です。自分がやりたいことに挑戦し、多様な価値観が花開く世界をつくるには、互いを思いやり、対話を重ねる力が欠かせません。知識として持っているだけでなく、それが行動として体現できているか。そこまで含めて本当に共有できているかが重要だと感じています。

古河さん:僕たちが大事にしているのは、短期的な成果や目に見えるものだけではなく、個々人の価値観や信念といったものや組織の文化といった内面・土台もバランスよく高めていくことです。そのためには、「安心・安全」が欠かせません。誰一人取り残さないという安心感の中でこそ、真のつながりが生まれ、自己肯定感が育ち、自己実現へとつながっていくと思うのです。

ダイスさんとそれぞれの経験を共有する中で分かってきたのは、NBAというバスケットボールの世界でも、エンジニアリングの世界でも、たとえ分野は違っても、突き詰めた先に見えるものは共通しているのだなということです。それこそが普遍的な価値なのだと感じています。たまたま私たちは二人共海外にでて、このことを学び帰ってきたのですが、実はそれは日本に昔からずっとあったのです。

これまで多くの素晴らしい先人たちがやってきて下さったように、私達も次の世代のためにより良い日本の社会を作っていくことに貢献していきたいと考えています。

あとがき

今回の対談を通して、人や現場に誠実に向き合い続けながら、異なる国や文化、立場の中で歩みを重ねてこられたお二人だからこそ語れる言葉一つひとつに、未来に向かう子どもたちが安心して一歩を踏み出せるような、確かな温かさを感じました。

PLAY×MOVEが大切にしている価値観は、お二人の海外での原体験からくるもので、それは日本文化に脈々と流れる普遍的なものだったという気づきも印象的でした。実は、遠くへ探しに行かなくても答えはすぐ足元にあるのに、私たちはその存在に気づかないまま日々を過ごしているのかもしれません。だからこそ、その価値観をあらためて見つめ直し、言葉にし、共有し、広げていく――そんなお二人の想いが、この対談を通して強く伝わってきました。ぜひ、PLAY×MOVEのこれからの歩みに注目していただければと思います。