専業主婦の期間を経て、スポーツジムでのレッスンコーチや独立してソフトテニスのクラブチームの立ち上げを経験し、現在は身体を動かしながら心のコミュニケーションを育む教室「ジブン表現塾」の運営、指導現場や子育てを通しての経験をSNSで発信するなど、競技の「技術」よりも「心と体の土台」を育てることを大切にされているキッズスポーツ教室のコーチ、そして3児のお母さんである岩元さんの『心ときめく歩きかた』を取材しました。



「もうスポーツはやらない」と封印した過去を経て
小さい頃から体を動かすことが大好きで、中学と高校の6年間、強豪校と言われるような環境でソフトテニスをしていました。そのとき成績は出せていましたが、監督の目を常に気にしてミスを恐れ、本当の意味で楽しめなくなっていきました。指導に違和感を覚えるようになり、「もうスポーツはやらない」と封印。自分を抑えてきた結果、大人になってからも自分の気持ちをうまく言葉にできず、感情を表現することすら難しくなっていました。「自分で考える」という習慣がなかった当時は、自分の気持ちすらよくわからないまま過ごしていたように思います。
ところが、知り合いから「うちのチームで教えてくれない?」と紹介を受け、もう一度ソフトテニスに関わる機会がきたんです。最初はお断りしていましたが、そのあと少し思い直して、「ちょっとチャレンジしてみようかな」とやってみることに。子どもたちの無邪気で純粋な姿、できたときのキラキラした表情を見て、「私にもこんな楽しい時期があったな」と思い出しました。
ただ、そこでもやっぱり気になることがありました。昔ながらの上下関係が強い指導や、自分がかつて受けてきたような指導を目の当たりにし、またモヤモヤするように。そして、家族に相談したある時、「自分でチーム作ったら?」と言われたんです。その時は思ってもいなかったんですが、当時のチームでは、子ども、親、監督の間でそれぞれの想いや悩みを聞いていたので、「それもありなのかも」と思えて。「だったら自分がチームを作ろう」と一気に準備を進めました。当時は指導歴もまだ1年程度で、下の子が3歳くらいだったので、そんな状況でのクラブチームの立ち上げは大変でしたが、そこから約5年間、指導を続けました。
本当に自分がやりたいことを見つめ直す
立ち上げたクラブチームはソフトテニスという競技を教える場ではありましたが、「技術」よりも「心と体の土台」を育てることを大事にしていたので、自然とそこに共感してくださる方が集まるようになりました。ちょうどコロナの時期でもあったので、大会が中止になることも多く、その時間が子どもたちの日々の成長を大切にできる時間になったと思います。ただ、これは私ひとりではできなかったことで、親御さんの理解と関わりがあってこそできていたと思います。
参加してくれた子ども達の中には、年に数回しか学校には行けなかったけれど、クラブの練習には来てくれていた子もいました。一時期、「辞めたい」と言ったときも、お母さんから相談を受けて、どうして辞めたいと思うようになったのか、ゆっくり話をする時間を作って向き合いました。話を聞いていくうちに、その子は続けることを選んでくれて、最終的には一緒に卒業も迎えることができ、「あのとき話を聞いてくれてありがとう」という手紙をもらった時は、本当に嬉しかったです。
他にも、レッスンが終わったあとには、お迎えに来てくださった親御さんに「今日すごく頑張ってたから、家でもたくさん褒めてあげてくださいね」といった声かけを日常的にしたり、会話の中で家庭での様子を共有してもらったりと、親御さんとの協力体制を積極的に取るようにしていました。スポーツの技術指導よりも、子ども達の小さな成長を親御さんと一緒に喜び合える瞬間は、一番好きだなと実感する瞬間でした。
ただ、レッスンはあっという間に時間が過ぎてしまうし、現場では、どうしても子どもたちが受け身になりがちで、子どもたちの気持ちをじっくり聞くような時間がないことに疑問を感じるようになりました。「これは本当に自分がやりたいことなんだろうか」と見つめ直したとき、「私が教える」ではなく、「一緒に歩んでいく」スタンスを大切にしながら、競技の「技術」よりも「心と体の土台」を育てることを意識した「身体を動かしながら心のコミュニケーションを育む教室」として『ジブン表現塾』をスタートする運びとなりました。



子育ての経験が今に繋がる
自分自身が母親になり、息子が幼稚園に入ったときのことです。まだ幼かった息子が言葉が上手く出てこないもどかしさで、お友達を引っかいたりしてしまうことがあり、毎日のように「今日は〇〇くんがこういうことをしました」と園から電話がかかってきていました。そのたびに私は相手の保護者に謝罪の電話をして、息子を叱ることしかできず、子育てに反省ばかりの毎日でした。そんなある日、幼稚園で心理カウンセラーによる講演会があり、そこから私の子育てに対する考え方が大きく変わりました。講演のタイトルは「子どもの問題行動は家庭に原因がある」というもので、どれだけ伝えても状況が改善しなかった原因は「子どもが悪いのではなく、私だったんだ」と痛感しました。
講演をきっかけに改めて自分の言動を見つめ直すと、子どもの「できないこと」ばかりに目がいき、「なんでできないの?」とネガティブな言葉ばかり使っていたことに気づいたんです。そこで、まずは言葉から改善しようと意識し、ポジティブな言葉に少しずつ言い換えていきました。その後は心理学も学び、カウンセラーの資格も取りました。そうするうちに、子どもとの向き合い方が改善され、少しずつ変化も見られるようになり、幼稚園の先生から「今日は〇〇くんが優しくしてくれたんです」と言われるまでになりました。その時の経験から子どもが大きくなった今も、子どもが自分で考えて選んだ道を尊重することを大切にして、いつも相談しながら進めることができています。
ここまで言葉や考え方を変えることができたのは、自分の力だけではなく、家族や周りの方との影響が大きかったです。幼稚園でもアクティブなママさんたちがいてパワーをもらったり、子どもが3人いるので、幼稚園の在園期間も長くて、新しい繋がりも自然と広がっていきました。すべてのきっかけは、やっぱり「子どもたち」だったと思いますし、周りの方たちのおかげで考え方が前向きになっていったので、本当にありがたいと思っています。子育ては最初からうまくできるわけではないし、反省を繰り返してきて今がある。だからこそ、悩んでいる親御さんの気持ちがよくわかりますし、今はその経験をもとに発信することができています。
自分の道を見つけるためには
私自身、「本当にやりたいことってなんだろう」と自分を見つめ直した当初の挑戦は、スポーツ教室ではなくアパレルで、セレクトショップや婦人服のお店で働いてみたことでした。学生時代に本当はやりたかったけどできなかったことを試してみて、「何がやりたかったんだろう」と自分と向き合いながら、それを正解にしていく作業をしてきました。それは一歩進んで、また下がっての繰り返しで、自分を見つめ直す作業の連続です。それまでずっと「指示待ち人間」で、自分の意見を持てず、他人の言う通りに生きてきていたので、その思考を壊すのに6〜7年かかりました。でも、もともとネガティブ思考だったことが、考える力に繋がったとも思っています。元からポジティブだったら、きっとこうはならなかったはず。今までの生き方を見つめ直したことは本当に大きな学びになりました。
そして、様々な選択肢から自分の道を決めて進んでいくことは自信にも繋がります。自分の道を見つけることは選択の連続なので、”選択する力”を育むことが本当に大切になってきます。そのためには、成長できる環境に居ることも大切ですね。失敗を否定せず、「それもいい経験だったね」と次に進むためのサポートをしてくれるような環境に居られると、より自分を成長させることができると思います。自分の言葉を変えるとその言葉に合う人が増え、次第に自分に合った環境ができるようになっていくんです。私自身も、数年前に職場のオーナーから「言葉に気をつけると、わかるようになるよ」とアドバイスをもらい、その時はピンと来ませんでしたが、今はその意味が少しずつ理解できるようになっています。是非これを読んでくれた皆さんにも意識して向き合ってみてもらいたいです。
あとがき
ご自身の経験を活かしながらも、「親」や「指導者」としてではなく、一人の人間として子どもと対等に向き合いたい——。そんな強い想いが、取材を通してひしひしと伝わってきました。それは、これまで幾度となくご自身と向き合い、思考の根本から変えようと努力を重ねてこられた岩元さんだからこそ、語れる言葉であり、届けられる熱意なのだと感じます。
心ときめく“自分らしい歩き方”を見つけた岩元さんの活動が、誰かの心の拠り所となり、安心と希望をもたらす存在として、これからも広がっていくことを心より願っております。この度は、貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。