ラクロスという競技は、フィールドに立つ選手だけで成り立っているわけではありません。
その裏側には、日々チームを支え続ける学生チームスタッフや指導者の存在があり、数えきれない挑戦や工夫が積み重ねられています。
WEBメディア「VARROWS.NET」は、九州ラクロス強化部と協働し、ラクロスの現場で生まれてきた“人の想い”に焦点を当てた特集をお届けすることになりました。
そして今回、その一人として、九州地区強化部、審判部、九州医科学委員会に所属され、ユース(各代で選抜されたメンバーで構成されたチーム)のチームスタッフを務める下園桜さんに大学ラクロスを引退した後も競技に関わり続け、活躍し続けている背景や想いを綴っていただきました。
ぜひ最後までご覧ください。
「人の成長」に心を動かされ続けてきた、私の原点
なぜ私は、引退してからもラクロスに関わり続けているのだろう。
そして私は何を目標と定め、何を求めているのだろう。
その理由を、改めて言葉にする機会はありませんでした。
ただ振り返ってみると、いつも「人が成長していく過程」に惹かれているように思います。
学生時代、私は男子ラクロス部でチームスタッフの中のトレーナーとして活動し、トレーニングメニューの作成や怪我対応など、フィジカル面からチームを支えていました。
チームスタッフは表に立つ存在ではありませんでしたが、プレイヤーが安心して全力を出せる環境を整えることに、大きなやりがいを感じていました。
しかし、大学生活はコロナ禍と重なり、思うように練習ができない時期が続きました。同期や先輩が次々と辞めていき、気づけば少ない人数で活動する日々が続いていました。入学当初に思い描いていた「大学ラクロス」とは、正直かけ離れていたと思います。
それでも、ラクロスへの好奇心や、チームスタッフとして人を支える楽しさ、自分の可能性を広げたいという気持ちが消えることはありませんでした。
「この環境だからできない」と諦めるのではなく、「この環境でも何かできるはずだ」と考え続けていたように思います。



チームを越えて見つけた自分の役割
そんな中で芽生えたのが、自チームの外でも自分を試したいという思いでした。
ユースやラクロスフェスタ(ユースメンバーをはじめ、各代の選抜メンバーが参加する新人生向けのイベント)での他大学との交流など、チーム外の活動に積極的に関わるようになり、そこで初めて、自分の視野が大きく広がった感覚を得ました。
同じラクロスでも、大学ごとに考え方ややり方が違う。
その違いを知ることで、支える側にもさまざまな在り方があり、いずれもプレイヤーの成長を中心に考えていることを学びました。
上級生になるにつれ、有難いことに、地区の下級生の育成に携わる機会も増えていきました。大学の垣根を越えて後輩スタッフに関わる中で、誰かの成長に伴走すること、そしてその先にいるプレイヤーを第一に考えることにやりがいを感じている自分に気づきました。
目の前のスタッフが少しずつできることを増やし、自信を持っていく姿を見る時間は、私にとって特別なものでした。この経験が、引退後もラクロスから離れず、ユースでTS(トレーナー・マネージャー・アナライジング等チームに携わるチームスタッフの略)コーチとして活動する今の自分につながっています。
現在、私は九州地区ユースでTSコーチとして活動しています。TSは決して目立つ役割ではありません。けれど、準備や判断が不十分であれば、チームの流れを崩し、勝てるはずの試合を落とすこともあります。
一方で、信頼できるTSがいることで、選手は安心してプレーできます。TSとしての役割は、選手が安心してプレーできる環境を作ること。
つまり、常にプレイヤーを第一に考えて行動することです。
この“見えにくい部分の力”こそが、チーム力を高める基盤になると、私は信じています。
九州全体での底上げを目指す
ユース活動では、九州地区の1年生を招集し、同学年で練習を重ねながら交流を深め、社会人コーチの指導を受けることで、地区全体のレベル向上を目指しています。
ラクロス界は関東を中心に動いており、九州は大学数や人口の少なさから、スタッフの経験やノウハウに差が生まれやすいのが現状です。だからこそ私は、特定の大学だけが強くなるのではなく、「九州全体で底上げする」ことに意味があると考えています。
ユースという場は、同じ学年・同じ立場のスタッフ同士が関わり合い、チームの枠を超えて学べる貴重な環境です。自分のやり方がすべてではないと知り、「こういう考え方もある」と受け取れること自体が、大きな学びになります。
また、ユースコーチとして関わる中で、私が大切にしているのは、技術や方法だけを伝えることではありません。安全面への意識、プレイヤーへの配慮、チーム全体を見渡す視点、そして「なぜそうするのか」を、自分の言葉で説明できる力です。
後輩たちにやり方を伝えていく中で、すぐに伝わらないこともありますし、なかには納得してもらえないこともあります。それでも、「正しさ」を一方的に押しつけるのではなく、相手が考え、理解できる形で伝えることを意識しています。ときには嫌われ役になることもあるかもしれませんが、常にプレイヤーを第一に考え、伝え続けることが大切だと思っています。
また私は、技術だけでなく、人として信頼されるスタッフが増えてほしいとも思っています。挨拶や礼儀など、当たり前のことを当たり前にできること。そうした土台を持つスタッフが増えることで、チームや地区全体の基準は引き上げられていくはずです。
最後に、学生スタッフのみなさんに問いかけたいことがあります。
「あなたにしか出せない存在価値は何ですか。」
一人ひとりが “替えのきかない存在” になることで、九州だからこそ描ける未来が、きっと広がっていく。
この地で育成に向き合い、後輩の成長に関わり続けながら、いつか「九州地区ってすごい」と言われる未来を目指していきたいと思います。

