【独占取材】「福岡女学院中学校・高等学校」と女子サッカークラブ「福岡J・アンクラス」が教育連携に関する協定を締結

「福岡女学院中学校・高等学校」と女子サッカークラブ「福岡J・アンクラス」が、教育連携に関する協定を締結しました。教育およびスポーツを通じた人材育成、地域社会の発展、さらには女性スポーツの振興に寄与することを目指す、新たな挑戦の始まりです。

先日、9月29日に福岡女学院中学校・高等学校で行われた締結式後、VARROWS.NETの取材のために特別に時間を設けていただきました。取材には、福岡女学院中学校・高等学校 学校長・重枝一郎氏、クラブ創設者・鶴原一徳氏、福岡女学院監督・谷光大河氏、福岡J・アンクラス代表取締役・大谷博毅氏、同クラブ監督・上田涼斗氏、下部組織ANCLASノーヴァ監督・馬場奈都子氏がご登場。締結に至った背景や今後の展望について、じっくりとお話を伺いました。

⸻本日の締結式を迎えてご心境はいかがですか?

重枝校長:これまで関わってきた先生方はもちろん、新しい出会いが広がっていくことにも非常にワクワクしています。「繋がれば広がっていくんだな」と改めて実感しています。皆さんがサッカー経験者ということもあり、生徒たちをどう育てていきたいかというイメージも自然と共通していましたし、これから一緒に目指す場所に向かって、力を合わせていきたいと思っています。

大谷社長:様々な方の想いで続いてきた私たちのクラブ、福岡J・アンクラスは創設39年を迎えます。しかし、私としては、重枝校長をはじめ女学院中学校・高等学校の皆さんが今回の提携を決意してくださったことを受け、「始」という新たな挑戦の意識で、福岡J・アンクラスを九州・福岡の地にしっかり根付かせていきたいと考えています。

⸻福岡女学院サッカー部、そして福岡J・アンクラスを創設された鶴原先生は締結式を迎えられていかがでしょうか?

鶴原先生:率直に、感無量です。クラブを立ち上げた39年前は、「女の子がサッカーをするのか」という時代でした。支援を募ることも難しい時期を過ごし、様々な苦労を抱えながら、一人で突っ走ってきました。ですので、こうして自分が手掛けてきた2つのクラブが連携する形になったことは、本当に嬉しく思います。

馬場監督:私は福岡女学院の卒業生として、鶴原先生から多くのことを学んできました。現在は福岡県の育成年代にも関わっていますが、他校の選手のレベルも上がる中で、今回の提携により、私たちのクラブからもさらに優れた人材を輩出できるよう、育成に力を入れていきたいと思っています。

谷光監督:今回の提携を機に、新しいチャレンジができるのは非常に楽しみにしています。重枝校長がおっしゃった通り、私自身もワクワクすることがたくさんあります。一方で、高校Uー18の年代では選手権やインターハイで全国大会出場を目指すため、良い結果を残す責任とやりがいを感じています。教育者として、サッカーをする子どもたちにどう向き合い、どのように育てていくかを学び合いながら、生徒と共に歩み、取り組んでいきたいと思います。

上田監督:(締結に至るまでのスピード感には)驚きもありました。今年就任したばかりですが、大谷社長がおっしゃったように、クラブ名の”J”という部分には、これまで関わった皆さんの思いが込められています。その思いを背負い、日々プレッシャーと戦っています。走りながら考えることが私の強みだと思っていますので、皆さんが手が届かせられない部分も一生懸命取り組み、今回の連携が上手く機能するよう、アイディアをいただきながら進めていきたいと思います。

⸻クラブ創設から、今回の締結に至るまでどのように歩んでこられたのでしょうか?

鶴原先生:私がチームを立ち上げた頃、他の中学校や高校には女子サッカー部が活動できる環境が整っておらず、小学校時代にサッカーをしていた学生が中学に進むと競技を続けられないという状況がありました。「他の学校の学生でもサッカーを続けられる場を作ろう」という思いから、“クラブチーム”としてスタートしたのが、現在の福岡女学院女子サッカー部です。

その後、高校を卒業した学生が大学に進学すると、再びサッカーを続ける場所がないという状況があり、OGチームを作ろうという流れで福岡J・アンクラスが発足しました。チームを立ち上げ、県リーグに初出場した試合では0対11という悔しい結果となりましたが、その日から全員が一生懸命練習に取り組むようになりました。3年後には九州リーグに初出場しましたが、そのときも0対11で敗戦。しかし、まるでドラマ『スクールウォーズ』のように、常に、「ここからやってやる!」という気持ちを持ち続け、九州リーグ7連覇など様々な成果につなげてきました。

さらに、2011年には、博多の森陸上競技場で行われたリーグ戦で、(2011FIFA女子ワールドカップでアジア勢初の優勝を成し遂げたなでしこJAPANの主将)澤穂希選手らが所属していたINAC神戸レオネッサと対戦する姿を見て、「よし、ここまで来た」と実感しました。今回の締結を機に、アンクラスにはなでしこリーグへの昇格を目指し、WEリーグにも挑戦してもらいたいと思います。また、女学院としてもインターハイや選手権に出場できるよう、陰から応援していきたいと考えています。

重枝校長:鶴原先生が築き上げてきた女子サッカー部の火を消したくないという思いから、私も微力ながら力を出して盛り上げてきました。ただ、学校長としてサッカー部だけに専念できるわけではなく、「どうすればよいだろうか」と顧問の先生方とよく話していました。

そんなとき、まるで光が差したかのように、大谷社長から今回のお話をいただき、必要な人と必要なタイミングで繋がったことに感動しています。これまで取り組んできたことが今に繋がったのだと実感しましたし、これからも前向きに取り組んでいきたいと考えています。

⸻今回の締結にあたり、教育方針としてどのようなポイントを重視されましたか?

重枝校長:教科の授業であってもサッカーの中であっても、学びのプロセスは変わりません。生徒たちが、どんな目標を持ち、どのように考え、どんなチャレンジをしてきたか。その一つひとつの経験の積み重ねが成長につながっていくのだと思っています。

大谷社長とお話しする中でも、教育的な視点をしっかりと重視されている姿勢が伝わってきました。通常であれば信頼関係を積み上げる時間が必要な部分もあるかもしれませんが、同じサッカー人としてビジョンをすぐに共有でき、スピーディに話が進んでいきました。

大谷社長:4月より、旧運営会社から経営権の譲渡を受け、新体制で運営しています。社名を「株式会社福岡 J ・アンクラス」と“J”にこだわったのも、今回の締結に向けた決意と責任感を貫きたいという想いがあったからです。締結にあたって、その熱意をしっかりとお伝えできたのではないかと思いますし、創立140年、明治18年からの歴史を持つ福岡女学院さんに受け入れていただき、今日に至るまでスピード感をもってご対応いただけたことに心から感謝しています。

また本日、鶴原先生や監督の話を伺い、「これまで本当に多くのご苦労があったんだな」「今回の締結という判断はやっぱり間違いなかったんだな」と改めて実感しました。さらに、育成年代を指揮する馬場監督は、福岡女学院が全国大会に出場した際のキャプテンでもあり、今回の締結に対して強い想いを持つOGでもあります。これからさらに力を発揮してもらいたいですし、一緒に子どもたちが輝く瞬間を創り出していきたいと考えています。

⸻育成年代を指揮される監督として、特にどのような点を意識して指導していきたいとお考えですか?

馬場監督:もちろんサッカーの技術も重要ですが、同時に人間性も重視しています。人間性が伴わなければ、サッカーの技術も伸びないと考えているので、育成年代では人間性を育むことに重点を置くことが、クラブ全体の力につながると思います。また、チームとして再び全国大会への切符を掴んでもらいたいという思いがありますし、福岡県の女子サッカーを盛り上げるという点でも、協力して取り組んでいきたいと考えています。

谷光監督:全国大会に出場したいという思いで4年目を迎えましたが、現実はなかなか思うようにいかず、以前と比べると衰退してしまった部分もあります。そう意味でも、今回の締結は大きな光となりました。ここから先をどう進めるかを考えるのは、監督である自分の役目だと思っています。ワクワクしているだけで終わらず、実際に足を動かし、頭を使いながら考え、一歩ずつ着実に前進していきたいと考えています。

⸻新しい一歩を踏み出したクラブですが、今後どのようなことを期待されていますか?

鶴原先生:中学時代からアンクラスに所属していた猶本光選手(現・WEリーグ 日テレ・東京ヴェルディベレーザ所属)は、高校時代からすでにトップチームの試合に出場し、日本代表にも選出されています。今回の締結を機に、育成年代から上のカテゴリーを目指せる環境を整え、将来は再び代表選手を輩出できるようなクラブを目指してほしいと思います。

また、クラブ創設当初は、当時日本一と称された日テレ・東京ヴェルディベレーザ(以下、ベレーザ)を倒すことを目標に歩んできました。現在、猶本選手がそのベレーザに所属しているので、今こそ同じ舞台で対戦する姿を見たいと強く思っています。

サッカーは“ジャイアントキリング”が起こるスポーツです。だからこそ、私が常に伝えてきたのは、机上で立てた戦術を試合の中で10回に1回でも成功させること。その1回を積み重ねていくことで、全国大会でも勝てるし、強豪チームにも勝つことができるそんな精神を、これからの若い選手たちにも受け継いでいってもらいたいです。

上田監督:女子サッカーの魅力の一つは、中学生のうちからトップチームの試合に出場できる点にあると思います。男子では非常に珍しいケースですが、女子選手は男子選手と比較して身体的な成長スピードが早いため、地域の子どもたちが地域のヒロインとして活躍できる最短のルートが女子サッカーだと感じています。また、「地域から世界へ繋がる」という点も、日本の女子サッカーが持つ大きな価値の一つだと思います。人口規模を踏まえても、福岡だからこそできることが必ずあると考えています。今回の締結によって、育成年代の学生が何千人もの観客の前でプレーする機会も、近い将来、実現できるのではないでしょうか。

鶴原先生がお話しされていたベレーザには、私自身、学生時代にインターンとして関わらせていただいた経験があります。ぜひ同じ舞台で戦える日を目指していきたいと思っています。

⸻今回の協定をはじめ、企業や自治体との提携にも積極的に取り組まれていますが、今後、どのような未来を描かれていますか?

大谷社長:官民一体となり、学校法人・NPO法人・株式会社・メディアとの連携が進むことで、地域や教育、健康などの分野において、幅広く繋がっていけると考えています。アンクラス単独の取り組みではどうしても規模が小さくなってしまいますが、行政との協力や多様な団体との連携によって、活動の魅力が増し、資金面での広がりも生まれます。ただ、教育かスポーツのどちらか一方に偏ってしまっては継続できません。こちらからも施設の有効活用などについて積極的に提案し、学校との役割分担をうまく行うことで、地域のハブとなるような存在を目指したいと考えています。そして、必ず新しいものが生まれると信じています。

重枝校長:先ほど教育のお話が出ていましたが、先日、宇美町の教育長(重枝校長の一学年下の後輩)が校長室を訪ねてくれた際に、今回の取り組みについて大いに盛り上がりました。教育長ご自身も、この取り組みをしっかりと認識され、「力を合わせて環境を整えていきたい」と強い意欲を示してくださっています。すでに良好な関係性が築かれているので、クラブ側が一方的に動くだけでなく、私の方からも「こうしたことはできないか」と積極的に提案しながら、協力して進めていきたいと考えています。

⸻最後に、今後に向けた想いや地域の皆さんへのメッセージをいただけますか?

大谷社長:クラブの歴史としては、ベレーザに次いで創立39年の福岡J・アンクラスが2番目になります。改めて「始」という意識を大切にして、取り組んでいきたいと思います。

重枝校長:行動すれば必ず壁にぶつかりますが、その壁を階段に変える力が大切になると生徒にもよく話しています。とにかく続けていく覚悟さえあれば、いつか結果はついてくると思っているので、これからも頑張っていきたいと思います。

鶴原先生:アントニオ猪木が引退の際に話した「この道を行けばどうなるものか。危ぶむなかれ危ぶめば道はなし。踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる。迷わず行けよ、行けば分かるさ。」という言葉があるように、迷わず進んでほしいと思っています。応援しています。

馬場監督:福岡県で、女学院とアンクラスが中心となって育成環境を整え、より良い環境を作っていきたいと考えています。育成年代の女子選手が「ここでサッカーをしたい」と思えるチームを目指していきます。

谷光監督:アンクラスのトップチームからUー18、Uー15、スクールまで一貫して繋がる体制を築くことができました。これからは全員で手を取り合い、一緒に歩んでいきたいと思います。子どもたちだけでなく、保護者や地域の皆さんにも「このチームでサッカーをすれば、技術だけでなく人間性も身につく」と感じてもらえるようにしたいです。また、このチームで活動することが誇りとなるようなクラブを目指していきます。

上田監督:今回は教育的な視点も踏まえて考えますと、学生時代に東福岡高校の平岡監督から「私利私欲ではなく、他利他欲。人のためにやりなさい」と教わりました。業界の課題や目の前の課題に向けて奔走したいと思います。

あとがき

今回のお話を通じて、クラブの歩んできた歴史と、今回の連携に至るまでの背景を伺うことができました。今回の連携を新たなスタートとして、手を取り合い、新たな価値を生み出していく未来に大きな期待が膨らみます。すでに築かれている関係性が今後さらに広がり、地域や選手にとってより良い環境へとつながっていく今後のさらなる発展に、心から期待しています。貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございました。

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