アスリートとしての歩みが、新たな夢の「原動力」へ

まえがき

熊本県益城町出身。熊本ユナイテッドSCから東福岡高校へ進学し、全国高校サッカー選手権では優秀選手に選ばれた木戸皓貴さん。明治大学では1年生から出場機会を掴むも、度重なる負傷に悩まされました。その後、アビスパ福岡でプロのキャリアをスタートさせ、モンテディオ山形、ラインメール青森、ヴィアティン三重とクラブを渡り歩き、2024年に現役続行の道から一歩踏み出します。現在は福岡県を拠点に、ソサイチクラブ「FUKUOKA CITY24」を立ち上げ、オーナー兼選手としてチームを牽引。「フットボールを通じて地域と未来をつなぎたい」との想いから、新たな挑戦に踏み出した木戸さんの“心ときめく歩きかた”を伺いました。

“選手”としての大きな決断

「サッカーを続けたい」という気持ちと同時に、将来について現実的に考えるようになった時期に”前十字靭帯断裂”という大きな怪我をしました。特にきつかったのは、膝の痛みが続いた時期。1週間ほど、朝起きるのも辛いほどの痛みが続きました。痛みが引かず、「このままでは引退するしかないかもしれない」とまで考えたほどです。手術をせずに様子を見るという選択肢も考えましたが、いつ悪化するかわからない不安を抱えたままプレーを続けることは難しい。サッカーを続けたいのはもちろんのこと、将来を考えても、靭帯の再建は必要。自分の怪我ときちんと「向き合う時間」を作ろうと考え、最終的には手術を受ける決断をしました。

大学以来の大怪我は、また違う重みを感じるものでした。同じリハビリの期間でも、家族を支えながら生活している中で、”先が見えない不安”が常につきまとい、復帰できたとしても本当にサッカーが続けられるのか――そんな大きな不安と迷いを抱えていました。大学時代に二度同じ怪我を経験していた分、ある程度のリハビリの流れや進め方は分かっていましたが、それでもやはり簡単な道のりではありませんでした。復帰に向けて取り組む中、多くの人たちが「お前はここで終わるような選手じゃない」と声をかけてくれたことは、当時の自分にとって大きな励ましになりました。その言葉があったからこそ、もう一度ピッチに戻ろうと思えたのだと思います。

本当にサッカーを辞められるのか?

選手としてプレーを続けながら、「自分はこれから何をするんだろう」という漠然とした思いがずっと心のどこかにありました。そんな中、山形県のチームで迎えたオフシーズン、福岡県のとあるサッカーコートに呼ばれたことがありました。そこは新しくできたグラウンドで、すでにソサイチの公式戦も行われている場所でした。そのグラウンドに立ったとき、なぜか心に引っかかるものがあって──それが、自分の中で「次に進むきっかけ」になりました。山形に戻ってからも、その感覚が心に残っていて、オンラインでビジネスの勉強を始めたり、さまざまな人と話す機会を持ったりと、自分の行動が少しずつ変わっていきました。

とはいえ、当初はまだ半信半疑。選手として「まだプレーできる」という自信や、「まだ辞めないだろうな」という思いもあったので、構想は抱きながらも、本格的に動き出すには至っていませんでした。それでもいつか引退のタイミングが来る。そうなった時、自分は「本当にサッカーを辞められるのか?」と考えるようになりました。結果、何度考えても、やっぱりそれは無理でした。自分はきっと、これからも何かしらの形でサッカーに関わっていく──そう確信したんです。そこから自然と、「チームをつくる」という考えが生まれました。

それは、自分自身がプロの世界に身を置いた経験の中で、移籍を重ねながら、働きながらサッカーを続ける選手たちの姿を間近に見てきたことも大きく影響しました。サッカーを続けたくても続けられない選手が多くいる現実を知り、「自分に何ができるだろう」「何か手助けできないか」という思いが自然と強くなっていたんです。そのうち、自分の中で少しずつ構想が膨らみ、初めて自分で資料を作ったり、イメージを形にしていく作業を始めました。

ちょうどその頃、「一緒にやりたい」と手を挙げてくれる選手も現れてくれて。チームを立ち上げるなら「福岡で」と決めていたので、遠隔で準備を進めながら、すぐにチームの申請に入りました。そして、選手としての契約を満了したのち、チーム発足に向けて本格的に動き出すべく、福岡へ拠点を移しました。

立ち上げたチームへの想い

ソサイチクラブ「FUKUOKA CITY24」を発足してまだ間もないですが、限られた環境の中でも試合に向けて練習を重ね、1部リーグ昇格を目指しています。現在所属しているリーグで1位になれば、一発で1部リーグへの昇格が決まる仕組みがあり、今年はそのチャンスを活かし、発足から最短最速での日本一を狙っています。

リーグで結果を残し、チームや選手としての価値が高まっていけば、それ自体が一つの魅力になる。完成された場所に飛び込むのではなく、地方やマイナーとされる場所から、自分たちの手でゼロから作り上げていくプロセスにこそ、大きなワクワクがあるんです。そして、その想いに共感して集まってくれる選手や仲間も多い。かつて一緒にプレーしていたメンバーと、再び同じピッチに立てていることにも、嬉しさと面白さを感じています。

熱くなれる環境さえあれば、年齢に関係なく本気で取り組む選手はたくさんいます。だからこそ、そんな場所を自分たちでつくりたいし、自分自身もそこに関わっていきたいと思っています。

その場所には、共に戦う仲間がいて、選手の生活を支える仕組みがあり、安心してプレーできる環境がある。そんな“新しいサッカーのあり方”を、ここ福岡からつくっていきたいと考えています。

あとがき

プロのアスリートとして歩んできた日々が確かな糧となり、新たな夢への原動力になっていることが伝わってくるお話ばかりでした。現役時代の悩みや葛藤を経て、「本当にやりたいこと」に気づいたとき、人は大きな力を発揮できる。そして、その思いに共鳴する人が自然と集まってくる――その姿に、強く心を打たれました。これからどんな未来を描いていくのか。今後の歩みに、ますます期待が高まります。

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