医療とスポーツの現場を繋ぐ〜松田彩希が切り開く道〜

学生トレーナーとして大阪体育大学ラグビー部で活動し、卒業後はメディカルフィットネス事業の立ち上げに3年間携わった松田彩希さん。その後、看護の専門学校へ進学し、現在は看護師1年目として新たなキャリアを歩み始めています。「看護師の視点を持ったトレーナー」として、2つの専門性を活かしながら“二刀流”の道を切り拓こうとする松田さんに、ご自身のこれまでの歩みと、これからの“心ときめく”未来について伺いました。

想いが「確信」に変わった瞬間

中学校からソフトボールをしていたのですが、自分自身ケガがとても多く、身体のさまざまな箇所を痛めていました。ケガに苦しんだ経験は、「同じような思いを他の人にはしてほしくない」という想いに変わり、次第に“トレーナー”を目指すようになりました。
そこから大阪体育大学に入学し、ラグビー部に学生トレーナーとして関わることに。身体の使い方も多岐にわたり、トレーナーとして必要な知識や技術のすべてが詰まっているラグビーには、入学当初から関わりたいと考えていましたし、専属のトレーナーやコーチから学べる機会もある充実した環境で、トレーナーの道を歩んでいくことになりました。

所属していたラグビー部は、当時2部に降格していた時期で、1部昇格を目指して練習に取り組んでいました。そして、私がトレーナーとして関わっていた年に、1部昇格をかけた入れ替え戦があったんです。選手たちは全員が思いを込めて戦った結果、勝利。念願の1部昇格を果たすことができました。泣いている選手もいて、「彩希のおかげで最後まで戦い抜けた、ありがとう」といった言葉もかけてもらえて。スタンドを見上げると、ベンチ外の選手たちや保護者の方々、応援してくださっていた方々まで、みんな泣いていました。

その景色を見たとき、「私はトレーナーとしてここにいてよかった」「これからもトレーナーをやっていきたい」と強く感じました。今でも忘れられない景色として、心から、関わる人たちをもっと支えたい、自分自身ももっとレベルアップしたいと、本気で思わせてくれるモチベーションに繋がっています。

自分で知識を身につけ、現場で活かしたい

大学2年生の頃、学生トレーナーとしてジュニアのテニスの大会に帯同したことがあります。そこには、ナショナルチームのトレーナーを務めていた方がいらっしゃって、その方のもとで活動させていただく機会がありました。その経験がとても印象に残っていて、以降はその方が主催するセミナーにも参加するようになっていきました。あるとき、その方から「会社を立ち上げる予定がある」という話を伺い、「就職はどうするの?」と尋ねられたんです。

当時は、まずアスレティックトレーナーの資格試験に合格することを最優先に考えていたので、就職についてはまだ具体的には決めていませんでした。そう伝えると、「ちょうど新しい会社を立ち上げるところだから、話を聞いてみないか」と声をかけていただいたんです。ゼロから1を作り上げていく過程に関われることに惹かれましたし、当時「メディカルフィットネス」という言葉はまだあまり一般的ではなく、新しい分野としての可能性も感じていました。さらに、そのトレーナーの方のもとで働けることに大きな学びがあると確信し、参加を決意しました。大学卒業後、立ち上げ段階にあった企業の創設メンバーとして働いた3年間は、自分にとって非常に大きな経験になったと感じています。

その後、看護の道へ進むべく、看護学校に進学しました。トレーナーの現場では、アスレティックトレーナーの資格を取得した後に、鍼灸師や理学療法士など、医療系の資格を取得される方も多くいらっしゃいます。実際に「トレーナーだけでやってみたい」と思い、現場に出てみたとき、やはり対応の難しさを感じる場面も少なくありませんでした。また、一般の方が参加するスポーツ大会では、救護スタッフとしてドクターや看護師が求められることが多く、そこに看護師がいるだけで安心感を持ってもらえるという場面にも立ち会いました。看護師としての知識を持つことは、自分にとって大きな強みになると感じましたし、女性トレーナーとして将来的なライフイベント――結婚や出産など――を視野に入れたとき、一度現場を離れた後にも復帰しやすいという点にも大きな魅力を感じるようになっていきました。

そんなあるとき、スポーツ大会の現場に帯同した際、現場に来ていた看護師の方がスポーツ現場に慣れておらず、対応に苦労されている姿を目にしました。そのとき、「スポーツに対応できる看護師がもっと必要だ」と強く感じたんです。そして、「まずは自分がやってみよう。自分がその道を切り拓いていきたい」と強い想いを持って、看護学校への進学を決意することができました。

「楽しい」を見つけるために――感情の動きを見逃さない

私が大切にしているのは、「自分が楽しいと思えることを大事にする」ことです。でも、実はその「楽しい」を見つけるのって、意外と難しいものなんですよね。そんな中で、とある研修で「感情が動いたポイントを自分で把握することが大切」という話を聞いたんです。そこから私は、「今日一番心が動いたことって何だったかな?」と、日記のように振り返る習慣を持つようになりました。

たとえば、「今日何が楽しかった?」「どんなことに疑問を感じた?」と、自分の“感情の動き”に意識を向けながら、ノートに書いていくんです。そして、「なんで楽しいと思ったんだろう?」「なんで疑問に思ったんだろう?」と、“なんで?”を繰り返していく。そうすることで、自分が本当に心惹かれるものや、情熱を持てることに少しずつ近づいていける気がしています。

日常の何気ない瞬間でも構いません。たとえば、ご飯を食べているときに「なんでこれが楽しいんだろう?」と問いかけてみる。そんなふうに、嬉しいと感じた理由を深掘りしていくと、自分の「好き」の正体が見えてくるんです。経験のなかったことができるようになったときの喜びって、本当に大きいですよね。そういった感情の動きを丁寧にたどることで、新しい気づきや自分自身の可能性に出会えると思っています。

また、私は“振り返ること”も大切にしています。1日の終わりに、「今日はこれができた」と自分をしっかり褒める。たったそれだけでも、前向きな気持ちになれます。うまくいかなかったことがあっても、「こう考えればよかったんだな」「なぜそうなったんだろう」と冷静に受け止める力が少しずつついてきた気がします。そんな“考える習慣”が、今の私を支えてくれているのだと思います。

現在、看護師1年目。まだまだ毎日が勉強ですが、少しずつ任されることも増えてきて、やりがいを感じられるようになってきました。今の仕事が楽しくて、楽しくて仕方がないんです。だからこそ、「自分が楽しいと思えること」を見つけるって、本当に大切なことなんだと、改めて感じています。

「その瞬間」だけじゃない。トレーナーと看護師、両方の視点で支える

看護学校に通い始めてから、自分の中でトレーナーとしての意識にも大きな変化がありました。以前よりも落ち着いて状況を観察し、今何が必要かを冷静に判断できるようになったと感じています。看護を学んだことで、目の前のケガへの対応だけでなく、日常生活の支援や再発予防までを含めた、より広い視点でサポートができるようになりました。

現在は、看護師として少しずつ経験を積んでいる段階ですが、トレーナーとしての活動も今後も継続していくつもりです。これからは“看護師の視点を持ったトレーナー”として、二つの専門性を活かした「二刀流」で活動していきたいと考えています。

また、それと並行して、学生指導にも関わっていけたらと思っています。トレーナーと看護師の両方を担える人材を増やしていくこと。それが、最終的には選手の安全につながると信じていますし、それこそが一番大事なことだと思っています。看護師がスポーツの現場に関わるとき、ただ“その場にいる”だけでは意味がありません。いざというときに、的確に対応できる力が必要です。そうした力を持つ看護師を育てていくこと。そして、医療とスポーツの現場をもっと強く結びつけていくことが、今の私の目標です。

あとがき

自分自身と丁寧に向き合い、そして目の前にいる選手や患者さんと真摯に関わる。その一つひとつの判断を積み重ねていく中で、確かな自信が生まれていく——。忘れられない景色が原動力となり、自らの道を切り拓いていく姿は、「心ときめく歩きかた」そのものだと感じました。

自分の中に「これを実現したい」という強い思いが芽生えたときの決意と行動力はとても力強く、思いの強さが人をここまで導いてくれるのだということを教えてくれるお話でした。この度は、貴重なお話を本当にありがとうございました。

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