まえがき
ミニバスケットボールチーム輪島レッドイーグルスで活躍し、その後石川県の津幡高校、大阪体育大学へ進学。卒業後はWJBLの「トヨタ紡織サンシャインラビッツ」でプロバスケットボール選手として活躍された池田智美さん。現役引退後は、子どもたちへのバスケ指導をはじめ、栄養の勉強をしてytbメソッド食生活改善指導エキスパートトレーナーとして活動、リズムトレーニングインストラクターの資格を取得。また、地元石川県で復興のため結成された3人制プロバスケットボールチーム「ECHAKE-NOTO.EXE」で現役復帰を果たすなど、さまざまな顔を持つ池田さんの“心ときめく歩きかた”についてお話を伺いました。
セカンドキャリアへの道
選手を引退する際、「これからどうしようかな」とセカンドキャリアについて考えていたとき、現在一緒に活動している指導者の方と出会い、子どもたちの指導に関わるようになりました。その方は、一貫した指導を通じて子どもの成長に寄り添い、競技者としてスキルアップするだけでなく、「人間性を高めることが生きていくうえで大切」という価値観を体現されていて、その姿勢に強く共感しました。そしてこの出会いが、自分の働き方を見つめ直すきっかけになったんです。とはいえ最初は、「やりたいことなんてないし…」というのが正直な気持ちでした。それでも、コロナ禍という状況もあり、自分と向き合う時間を設けることができましたし、コーチとして子どもたちに指導するうちに得た気づきも大きなきっかけになりました。
子どもたちの中で「勝たなければいけない」という空気が強まっていく状況でも、純粋に「やってみたい」と感じている子や、楽しみながら競技を続けたいと願う子どもたちが多くいることを知り、成績以外の側面を求めている子どもたちに、もっと柔軟な関わり方があるのではないかと考えるようになりました。そして、私はメインのコーチというよりも、「違う側面から子どもたちをサポートしていきたい」という気持ちが芽生えるようになっていったんです。
そこから、運動が好きな子どもたちのために、より楽しく身体能力を高められる「リズムトレーニング」のインストラクター資格を取得しました。また、自分自身の身体の不調や、周囲の人の体調不良をきっかけに、食事面からのサポートにも関心を持ち、栄養の勉強を始めました。さまざまなきっかけが重なり、栄養指導ができるトレーナーを目指すようになってからは、さらに「やりたいこと」が明確になっていきました。
自分が目指している道で活躍する方の話を聞いたり、競技以外の分野の方々と関わることで、競技者としても、引退後の人生を考えるうえでも、自分の世界が広がり、とても大きなヒントになったと実感しています。
「うまくいかないんじゃないか」「こんなことしても意味があるのかな」と不安を感じることもよくありましたが、出会った指導者の方が「絶対にうまくいくよ」と、心から応援してくれたことが本当に大きな支えになりました。だからこそ、これからは誰かの背中をそっと押せるような存在でありたいと思っています。



バスケを通して「地元に還元していきたい」
一昨年、地元・石川県能登で震災が起きたとき、実家も被災し、しばらく大変な時期が続きました。震災前から「地元でバスケットボールチームを立ち上げないか」と声をかけてくれていた同級生が、震災をきっかけに「今こそやるべきだ」と“復興”に向けて、チームを発足することに。その想いに共感し、現役復帰することを決意しました。これからも地元石川県に、元気を届けられるチームになれるように活動を続けています。
そして同時に、選手時代から勤めていた会社で今年4月から再び働くことになり、現在は所属していたチームの事務局をサポートしています。平日は愛知県で仕事をして、休みの日は石川県に移動してバスケをする生活。日本列島を縦断するような移動をしながら忙しく活動していますが、充実した毎日を送っています。子どもたちと深く関わることも多く、アカデミーでは3歳から15歳までの子どもたちを見守りながら、子どもの育成や人とのつながりの大切さも実感している日々です。



「今できること、今やりたいこと」に全力で取り組む
私自身、小さい頃からバスケに取り組んできましたが、学校生活を楽しみたいと思う時期や、他のスポーツをやってみたいと思うこともありました。私の場合は、最終的にバスケの道を選んで進んできましたが、成長するにつれて増えていく選択肢の中から、「自分で決める」ということは特に大切にしてきました。もし誰かに決められた道をそのまま進んでいたら、つらいときに続けられなかったかもしれませんし、きっと後悔していたと思います。
大きな目標を持つことももちろん大切ですが、その時々の「今、こうしたい」という気持ちを大切にして、進んでいってほしいと思っています。以前は、「これをやったらどうなるんだろう」と迷いながら過ごしていた時期もありましたが、今では「今できること、今やりたいこと」に全力で向き合う毎日を送っています。
小学生やアスリートへの栄養指導においても、「ただ栄養を摂れば良い」という単純な話ではなく、まず「自分がどう生きたいか」「どうなりたいか」から考えてもらうことを大切にしています。何を選ぶかは本人次第ですが、子どもたちの選択肢を狭めず、むしろ「こんな道もあるんだよ」とできるだけたくさんの選択肢を示してあげられるようなサポートをしていきたいと思っています。
栄養は身体だけでなく、心にも関係しているもの。子どもも、大人も、そしてコーチも、みんなが心理的にも安全な状態でスポーツに取り組むためには「食事」が一つの大切な選択肢として認知してもらえるように、環境づくりにも関わっていきたいです。そして、アスリートとして大切にしたい価値観や取り組み方などを伝えていくことで、「こんな生き方をしている人がいる」という存在そのものが、何かのきっかけになれば嬉しいです。



あとがき
子どもたちの成長を見守りながら、自分自身も学び続け、悩みながらも前に進んできたその姿勢に、心を強く打たれました。小さな一歩を積み重ねながら、自分の「やりたい」にたどり着いていく。そのプロセスは、きっと多くの人の共感や励ましにつながるのではないかと思います。このたびは、貴重なお話を本当にありがとうございました。