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「挑戦の先に見えたもの⸺草野可凜が歩んだ15 年の軌跡」

今回は、ラグビーと向き合って15年を迎え、現在、女子ラグビーチーム「ナナイロプリズム福岡」で活躍する草野可凜選手を取材。これまで数多くの移籍を通してさまざまな土地で多様な人々と出会い、刺激を受けながら成長を重ねてきた草野選手の『心ときめく歩き方』を伺いました。

挑戦の先に得た知見

大学を卒業して8 年、これまで、北海道、オーストラリア、静岡、東京、ニュージーランドなど、多くの移籍を経験してきました。学生の頃は一つのチームにできるだけ長く所属するタイプだと思っていたし、変化に対して免疫があるとも思っていませんでした。ただ、新しい場所に行くことや海外には昔から興味があったので、挑戦してこれたのだと思います。

数多くの経験の中でも、オーストラリアへの移籍は直前まで周りから心配されていました。正しい選択なのか悩みながらも、「海外にもう一度挑戦したい」と思い、移籍を決断。でも、いざ移籍!と動き出した時には、すでにオーストラリアのチームがトーナメント用に編成された選抜チームのような形になっていて、「もうメンバーは足りている。他の国からも選手が来ていて、なかなか難しいかもしれない」と、移籍困難な状況になったんです。現実的にワーキングホリデーも30 歳までしか使えないということもあり、ものすごく悩みました。

でもそんな時に背中を押してくれたのは、当時メルボルンで生活していた以前のチームメイトの言葉。彼女は心配性な私の気持ちを吹き飛ばすように、「まずは来てやってみなよ。無理だったらその時考えればいい」と言ってくれたんです。その言葉に背中を押されるように、「行けるうちに行っておこう」と決断することができました。仕事も家も決まっていない状態だったので、飛行機に搭乗したときも、「うわ、本当に出発しちゃった…」と思うほど不安でしたが、早速現地でトライアウトを受けたら、なんと合格。しかもめちゃくちゃ褒められて、「なんだそれ、態度全然違うやん!」と驚きました(笑)

1 ヶ月で4 大会あるハードなスケジュールの中でも、結果的にすべての大会でメンバーに選ばれ、しっかりと評価してもらうことができました。もともと10 チーム中8 位や9 位くらいの成績のチームでしたが、この年はずっと4 位以上をキープすることができ、最終的に総合2 位。シーズンを通してチームメイトと喜びや悔しさを分かち合いながらチームへの想いが強くなり、どんな状況でも前向きになれたからこそ、なにより楽しかった思い出が印象に残っています。

15 年ラグビーを続けてきた”原動力”とは

高校時代、ラグビー部の監督は「自分の行動がラグビー部全体にどんな影響を与えるのか」ということを教えてくれた方でした。人としての在り方やラグビーとの向き合い方を教えてくれた監督を「がっかりさせたくない」と強く思ったことが、ラグビーと本気で向き合うきっかけになったのかもしれません。今でも応援してくれていて、卒業後も娘のように可愛がってくれて、本当にありがたいです。「この子を育ててよかった」と思ってもらえるような人でありたいし、自慢できる存在になりたい。それが今でもエネルギーになっています。

福岡大学に進学し、男子ラグビー部に所属した時も、監督が「練習試合なら出してもいいのでは」と提案してくれて、練習試合に出してもらえるようになりました。男子チームの選手、スタッフの理解があったおかげで続けることができたと感じていますし、本当に周りの方々に恵まれて、関わってくれた方々に「何かを返したい」という気持ちがあるからこそ、続けられていると感じています。

そして、27~28 歳になったとき、選手としての寿命や今後のライフプランを考え始めた頃には、今まで数多くの経験をさせてくれた地元に恩返しがしたいという想いで「地元の福岡でプレーしたい」と戻ることを決めました。昔は自分に自信がなく、負けず嫌いだけど失敗が怖くて前に踏み出せない私を、支えてくれて、期待してくれる人がいなければ、ここまで続けられなかったし、いろんなことにチャレンジする機会もありませんでした。私にとっての原動力は周りの人なんだと思います。自分自身のためだけではなかなか動けないけれど、誰かのためと思うと頑張れるし、やるべきことをやらなきゃと責任感をもって取り組める。今は自分が活躍する姿を見せることが恩返しになると考え、日々励んでいます。

これから目指す場所

ラグビーを始めて15 年目を迎え、ここまで続けられたことに驚きもあります。30 歳を前にして同世代の選手はすでに引退する人も増えてきましたが、チーム内で上の世代の選手が頑張っている姿を見ると、「この人が走っているなら、自分もまだ走れる」と励みになり、この節目を迎えて、改めて頑張らなければと感じています。

チームとして目指すのは「太陽生命ウィメンズセブンスシリーズ」で優勝することです。個人の目標は、まず女子セブンズアカデミーに呼ばれ続けること、そしてそこで結果を残し、1 試合でも代表のキャップを取るということです。その先も行けるところまでプレーを続けたいですが、プレーが難しくなったらプレイングコーチとして関わる道も考えています。プレイヤーの気持ちがわかる立場として、戦術面やスキル指導をしながらチームに貢献できたらと思っています。

また、いろんな人と出会い、一緒にプレーしてきた経験からチームの一員としての立ち振る舞いや言葉の選び方など、女子チームで培ってきた経験が指導に活かせる場面もあると思っています。ラグビーの女子チームにも男性コーチと女性コーチが共存することで、より良い環境を作っていきたいと思っていますし、ラグビーの普及や強化に関わりながら、ラグビー未経験の方にもボールに触れられる機会を増やしていきたいです。

草野選手が思う”心ときめくものの見つけ方”

私がオーストラリアに行くと決めたのも、漠然と「海外っていいな」「英語が話せるのってかっこいい」「ラグビーの本場ってどんなところなんだろう」と思ったことがきっかけでした。知らないことは遠く感じますが、調べてみると、「意外と行けるかも」と少しずつ身近に感じられるようになります。

学生を対象としてキャリア教育の話をする機会があるのですが、そのときも「いろんなことに興味を持ちましょう」と伝えています。例えば、テレビに出てくる国や地域を見て「ここはどんなところだろう?」とか、街を歩いて「これは何でできているんだろう?」と考えるとか、食べ物を食べて「この味は何が入っているんだろう?」と気にしてみるとか。そうした小さな疑問から広がる世界は意外と多いものです。

そうした発見も、興味を持つことから生まれるのだと思います。できない、向いていない、わからないと感じることも、少しでも調べてみると新しい気づきがあるかもしれません。今はスマホで何でも調べられる時代なので、ちょっとでも調べてみて「面白そう」と思えたらラッキーだし、「違うな」と思っても、それでいい。そうした小さな積み重ねが、やりたいことや興味を見つけるきっかけになり、「これがあったら便利なのに」と思うことがあれば、それが仕事に繋がる可能性もあります。

将来について周りから聞かれることも多いので「何か決めなきゃ」と焦ると思いますが、急いで決める必要はないし、途中で変わったっていい。私も今はラグビーをしていて、この先コーチングをしたいと思っていますが、もしかしたら将来、「やっぱりケーキ屋さんをやりたい」と思うかもしれない。それもそれでいいと思います。何かに興味があることを示すこと、それに対して行動することで周囲の人が情報をくれたり、チャンスをくれたりすることもあるので、ざっくりとでも言葉に出していくことが大切だと感じています。いくらでもやり直せるし、たくさん挑戦していいんです。私自身もいろいろな場所へ行って、多くの経験を積んでこれたおかげで「できるかもしれない」と思えることが増えたと感じています。私が経験したことを話すことで、ハードルが少しでも下がって、「やってみよう」と思うきっかけになれば嬉しいです。

あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

海外へ挑戦し、今もなお目標に向かって努力を続ける姿は強く、逞しく映りますが、ここに至るまでの道のりでは、不安や孤独を感じる瞬間もあったといいます。影での努力を重ね、時には自分の力で踏ん張り、時には周囲の支えを受けながら、15 年間ラグビーと真剣に向き合ってきた草野選手。その歩みを知ることで、彼女の言葉の一つひとつがより深く心に響きました。

このインタビューを通じて、読んでくださった皆さんにも草野選手の想いが伝わっていると嬉しいです。

草野選手、貴重なお話をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。